Little AngelPretty devil
           〜ルイヒル年の差パラレル

    “秋だというのに”
 


あんなに暑い暑いと悩まされつつも、
それでもやっぱり 高校生のスポーツの祭典に沸いたり、
人出を見に行くだけと判っていつつも、
フェスや花火、バイトや旅行へわくわくと出掛けたり。
今年の夏もそれなりに、
楽しいバカンスなりイベントなりがあって、
例年と同じくらいに思い出が幾つかは出来たと思う。
そんな この夏の終わりにいきなり降って沸いたのが、
デング熱なる伝染病の話題で。
涼しくなったねぇなんてのが囁かれるのと同時進行、
ここ数年、都心じゃあ蚊が減ったねぇなんて言われていたはずが、
そんな厄介なものが、
しかも都心を舞台にドンと持ち上がったから、
人生 何においても油断は禁物。(おいおい)

 「場所が悪いやね、場所が。」

空気感染とか経口感染とかいう形で
人から人へと伝わるものではなく、
ウィルスを持つ人を刺した蚊が媒介する熱病だとかで。
そんな蚊が居るらしいと判明したのが
都会のオアシスでもある それは大きな緑地公園と来て。
ジョギングする人、散歩する人、
ダンスの練習をする人などなどが毎日来るその上、

 「イベントも多いトコだしな。」

あのダンスの祭典
“よさこい祭り”の東京大会の会場にもなったそうですし、
他にも夏休みならではな“世界の何とか”系の催事が多かったとか。

 「それに、今年の高校総体は南関東大会だったしな。」

例年以上に全国から若者が集まりもした今年で、
運動施設や宿泊先が多かった場所柄でもあっただけに、
集合場所になりもすれば、
準備運動したり息抜きにと散歩した人もいただろし。

 「代々木公園て言われてもピンと来なかったけど、
  明治神宮って言われて、
  ああ あの辺かって思うのは順番がおかしいのかなぁ。」

 「まあ俺らは、神宮外苑の方が縁も深いしな。」

野球場とか 大きいフィールドがある施設は
そっちにこそ たんとありますからねぇ。
そして、何とそちらでも
蚊に刺されて伝染したらしい人が現れたそうで。
まま、今時なら
車の中などへ紛れこみゃあ、
数キロ単位の移動もさほど難しくありませんし。
世界的に見れば
蚊に刺されることの方が
蛇や毒グモに咬まれるより致死率高いそうなのに、
痒みだけを案じてた日本人こそ、
ガードが甘かっただけなのかも知れません。
(でも、その調査の比率も
 ちょっとなあと思わんでもないのですが。)
 *蚊と蛇では絶対数が違い過ぎ…

 とはいえ、

 「アメフトはどっちかっつうと、
  川崎とか横浜とか、都内では多摩とかなんだけどもな。」

どうしても野球の大会に締め出されるか、
味の素スタジアムのお隣り、
アミノバイタルが本拠みたいなもんで。
とはいえ、これからこそ本番という、
正しくシーズン到来なため、
他人ごとみたいに構えてもいられない。
週末には各地の競技場で試合もあるし、
それへの調整が主体になるとはいえ、
ランニングはそれこそ基本のトレーニング、
メニューから外す訳にも行かぬとあって。
練習にと走る場合は、ようよう注意するようにという通達が、
いろんな方面から届いてもおり。
我らが“賊大フリル・ド・リザード”へも、
メールや書面で“気をつけようね”という声掛けが多々。

 「外で運動するなら、長袖長ズボンで。」
 「あと、出来れば虫よけを使えとサ。」

 代々木からは遠いガッコなのになぁ。
 いやいやいやいや、話 聞いてたか、お前。
 そうだぞ、
 もはやウィルス保有者があちこち散ってるも同然なんだから。
 いやいや、それだと話が飛びすぎだし、と。

練習用のグラウンドへ集まった屈強なお兄さんがたが、
準備運動もそこそこ、井戸端会議状態になっておいでで。
ちょっと方向性の怪しい方へと話が逸れつつあるのを拾い、

 「ある意味、混乱してるようだよねぇ。」

主務や女子マネを統括しているメグさんが、
肩をすくめる傍らで、

 「まあ、日に日に情報が増えるから混乱もしようさね。」

その大きな手の上じゃあ、
小型タイプに見えかねぬタブレットに
トレーニングメニューを呼び出したのを眺めつつ。
世間一般のみならす、自分の不肖の仲間内までがこの騒ぎとは
葉柱主将が苦笑をこぼしていたのだが、

 「……で。お前はまた、どういうカッコをしとるかな。」

背中に斜めに添わせる 今はやりのボディバッグにしては、
それはそれは大きなサイズのそれ。
本人が余裕で入れそうなドラムバッグを、
小さなお背(おせな)にくくりつけ。
やや、どころか相当にご不満そうなお顔で、
遅ればせながらフィールド脇のベンチまでやって来た、
小さな軍曹さんへと声を掛けたところ。
陽に透ける金の前髪をぷるんと揺すりつつ、

 「家出じゃねぇから安心しろ。」

毅然と言い放つ方も方なら、

 「だろうよな。」

一笑のみで了解しちゃえる、お兄さんもお兄さんかと。
例え そうだったとしても、
身の回り品を一切合切かき集めて出て来るような、
ステレオタイプの行動はするまい。
今時は身ひとつで泊まれるビジネスホテルもざらにあるし、
子供では無理な話だというのなら、
スーパー銭湯か、はたまたもっと身近(?)な
まんが喫茶へ潜り込むという手もあると、
さほど熟考を構えずとも浮かぶような子だ。
それより何より、こうして当人の前へ出て来るような、
葉柱への面当てとかいった家出でない場合、
身ひとつで葉柱邸まで

 “ついて来ればいいだけの話だしなぁ…”

自然とそう思えるような仲だもの、
やっぱり家出はないないと
あっさり流して、さて

 「で?」
 「バカ親父が妙なもん作りやがってよ。」

外でのトレーニングのコーチングとか
競技場までお出掛けとか、
そういうところに居る身でいるなら これを着ろって。
そうと言って、
負うて来たバッグを
忌々しげにペンペンと叩くところから察するに、
知るかと見限って来た訳ではないところが

 “こいつ、結構 身内に甘いというか、”

身内だけにという甘え方はしない
…というくくりの喩えにして良いものか、
よそのお兄さんやおじさんへも、
そこまでやるかと容赦なく鉄槌食らわすくせに。
案外と、身内に類する存在へは
さほど手ひどい仕打ちを向けないような気がする葉柱さんで。
例えば、小さなセナくんからの甘えも容認するし、
それどころか目配りを忘れない彼だし。
アメフト部のお兄さんたちへも、
容赦のないスパルタを敢行しはするが、
その結果、関東インカレ界では結構レベルも高いアメフトで、
エリアリーグの最下位を
うろうろしていて不思議じゃないレベルのはずが。
彼らの世代が入った途端、
毎年 着実に昇格し、
今や2部まで入れ替え戦を上がって来た
フリル・ド・リザードだったりするワケだし。

 「いかにもな流行に乗んのが、一番ヤダっつうのによ。」
 「ああ判る判る。」

文句たれたれ バッグを降ろすと、
ジッパーを少しだけ開いて見せてくれたのが、
何かしらの愛らしいキャラクターらしいお顔の部分で。
着ぐるみコスが流行してない訳でなし、
坊や自身、
ハロウィンなんかが重なる頃合いには
それなりのコスプレを進んでしてもいるのだが、

 「一応は防護服だ、なんて言ってたけどよ。」

この坊やに ようよう似た、
鋭角的風貌のイケメンなお父様が手縫いしたらしいそれは、
妖怪うぉっちとやらのマスコット、
ジバニャンとかいうネコの着ぐるみならしく。(おおう)

 「ウィスパーのがまだマシだ。」
 「すまんな、よく判らんのだが。」

一応は知ってるらしい坊やが、まったくよぉと口許を歪め、

 「くうンとこへ持ってこうと思ったら、
  あいつにはマスターが キュウビを作ったって話でサ。」
 「…………そうか。」

くうというのは、この坊やの従兄弟で、
まだまだ幼い幼稚園児の身だから、
押し付け…もとえ、譲ってやろうと思ったらしいのに。
それへと先んじるように、そんな情報をもたらされたらしく。
そしてそして、ツッコミどころが多すぎて、
とりあえず納得した振りで誤魔化した葉柱さんなのは明白で。

 “そうか。あのマスターさん、裁縫も得意なのか。”

やっぱそこですか。(笑)

 「ふなっしーならまだ着るサ。」

こぉんな いかにもなの、ちょっと引くよなと、
そりゃあ可愛らしいフード部分を引っ張り出して
不服を垂れてる軍曹さんの言いようへ、

 “あいつのストライクゾーンは相変わらずよく判らん。”
 “ああ。”
 “同感だぜ。”

お兄さんたちがこそこそ囁き合ってたのはここだけのお話。
聞こえていても内緒にしてあげてねと、
遅咲きの野ユリが トンボに言い聞かせるよに揺れていた。




    〜Fine〜  14.09.05.


  *東京のほうでは
   夏も終わったというに蚊の対策で大変ですねぇ。
   蚊取り線香が売れまくりの、
   虫よけスプレーが在庫尽きただの、
   こっちは結果 冷夏だったんで
   (しかも雨が多くて花火大会が軒並み中止だったし)
   あんまり出番がなかったものが取り沙汰されてると聞き、
   そこへも日本の広さを感じてたりしますが。
   秋もいろいろイベントがありますのにね。。


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